「どっちも買う?」
「どっちも買おか?」
「うん。私ら、お金あるで」
「そうやん。俺ら、金あるやん」
われわれは、2種類のシャーベットを抱え、踊りながらレジへ向かった。
3月半ば、パンデミックの支援金として、2800ドルが我々の銀行口座に振り込まれた。私たちは、ことあるごとに、
「私ら、お金あるで」
と、大いに喜んでいる次第だ。
4月28日、ジョー・バイデン大統領は、就任100日を前に、政権発足後初の施政方針演説を行った。
2021年1月、バイデン政権は民主主義の再建、多くの課題を持ってスタートした。
1.パンデミックによる経済危機の救済
2.環境問題改善
3.警察組織改革など。
この100日間で、バイデン大統領は17の行政命令に次々とサインをした。その中には、パリ協定への復帰、キーストーンXLパイプラインの建設認可の取り消し、メキシコ国境の壁建設をめぐる国家非常事態宣言の撤回、世界保健機構脱退取り消しなどが含まれる。
壇上に現れたバイデン大統領は、
「過去に、マダム副大統領、マダム下院議長を紹介した大統領はいない。そういう時代になってもいい頃だ」
と、大統領の背後に並ぶ、カマラ・ハリス副大統領と、ナンシー・ペロシ下院議長を紹介した。
演説の冒頭は、コロナワクチン接種が2億2千万回以上に達したことだ。これは当初予定していた1億回を大きく上回った。大統領は、この迅速な対応と、その成果をアピールし、
「アメリカは再び前進し始めた」
と述べた。
そして、現在の経済危機を乗り切るための3つのプランについて語った。
まず、米国救済計画だ。1兆9千億ドルを投じたこのプランにより、国民には、ひとり当たり1400ドルの支援金、失業者には、毎週300ドルが支給された。
この計画には食料と栄養支援、家賃支援、中小企業への貸付なども含まれる。
その結果、子供の貧困が年内に半減すると考えられている。
次に、経済の再構築を目指す米国雇用計画だ。これはブルーカラーのための構想だ。道路や橋の近代化、鉛を使用した水道管の取り換え、高速インターネットの普及、エネルギー効率の高いビルの建設、ハイウェイの充電ステーションの設置といった、環境改善のための事業をつくることにより、雇用が増加し、経済が成長する。
この計画には、2兆3千億ドルの予算が充てられた。
この計画には、2兆3千億ドルの予算が充てられた。
3つめの米国家族計画は1兆8千億ドルを投じて、中低所得者層の子育て世帯を支援し、良質な教育を提供する。
無料の託児所や、最長12週間の家族医療休暇、短大の無料提供、HBCU(歴史的黒人大学)への投資を増やす、などが挙げられた。
無料の託児所や、最長12週間の家族医療休暇、短大の無料提供、HBCU(歴史的黒人大学)への投資を増やす、などが挙げられた。
医療保険改革法もそのひとつで、900万人以上の医療保険料が引き下げられ、それがキープできるように計画されている。
「医療は特権ではなく権利だ!」
という大統領の言葉に、多くの人が拍手を送ったに違いない。
これら3つの計画は総額6兆ドルになる。大統領はその財源を、上位1%の年収40万ドル以上の富裕層と、米企業への増税で賄う予定だ。
この他、バイデン大統領は、アフガニスタンからの兵士帰還、銃規制、移民制度、警察組織改革、ヘイトクライム法案、などについても言及した。
この演説の中で、もっとも感動したのは、大統領が組織的人種差別の根絶について話した際に、
「白人至上主義はテロだ」
と言った瞬間だ。
「イエス!!!」
多くの黒人が、テレビの前で拳を高く掲げた(ブラック・パワー・サリュート)に違いない。
今回の施政方針演説は、パンデミックのためにビジターは入れず、少人数の議員だけで行われた。二党の団結を訴えるバイデン大統領のスピーチに、民主党員は立ち上がって拍手を送り、共産党員は椅子に座ったまま、無表情を貫いた。しかしながら、不必要なパフォーマンスはなく、粛々とした雰囲気の中で行われた。
そしてバイデン大統領のスピーチの後、サウスキャロライナ州出身、共和党上院議員、ティム・スコットが反対演説を行った。
「民主党は、国の統一に向けて共に戦おうとした共和党を引き離した」
「増税は経済を縮小することになる」
「国家家族計画のような特定の問題に大金を投じるべきではない」
と訴えた。
問題は、彼が人種差別問題を語るときに起こった。黒人のティム・スコットが、
「アメリカは人種差別の国ではありません」
と言ったのだ。
この言葉が、多くのブラザー、シスターたちの怒りを買ったことは言うまでもない。
キング牧師の娘、バーニー・キングは、
「アメリカが人種差別の国ではないというなら、彼は違うアメリカで暮らしているのね」
と非難した。
とはいうものの、彼は次回の選挙でも、共和党員として出馬し、南部のサウスキャロライナ州で当選しなければならない。白人国家主義者に仕える以外、彼が政治家として生き残る方法はない。そして、彼はそうすることで、現在のポジションを獲得したのだ。
ティム・スコットは、彼がするべきことをした。
しかし、騒動はそれだけでは終わらなかった。
翌日のモーニング・ショウで、ティム・スコットの発言に対するコメントを求められたカマラ・ハリス副大統領が、
「アメリカは人種差別の国だとは思いません」
と、ティム・スコットに同意したのだ!!!
それを聞いた黒人たちは、
「カマラ・ハリスは裏切り者だ!!」
「彼女の夫は白人だからね」
「ティムもカマラも同じ穴の狢ね。私たちとは違のよ!」
と、ソーシャルメディアで怒りをぶちまけた。
当然である。
この国の白人の資産は黒人の7倍だ。国土の98%は白人が所有し、黒人の所有率は1%にも満たない。白人と比べて、黒人に対する銀行ローンの利息は高く、リファイナンスの手数料も高額だ。黒人は軽罪でも警察官に射殺され、無差別殺人を犯した白人は保護される。黒人女性の出産時の死亡率は白人の3.3倍だ。その理由は、黒人が選択できる病院のクオリティが低い、同じ病院でも看護体制が人種によって異なる、もともとも栄養状態が低い、など様々だ。
公正住宅取引も実は公正ではない。家の査定額に納得できなかった黒人女性が、家の中の黒人を示す、すべての物を隠し、友人の白人男性にオーナーのふりをしてもらったら、査定が二倍に跳ね上がったそうだ。
人種による格差を例に挙げればきりがない。
ところが、カマラ・ハリスはそれを否定したのだ!!!!!
実際には、副大統領は“人種差別の国ではない”と言った後に、
「しかし、この国には人種差別の歴史があり、それが現在も存在することを無視することはできない」
と言っている。
彼女もまた、政治家なのだ。
2020年に行われた大統領選挙の投票者の69%は白人だ。
ジョージ・フロイド氏殺害の裁判で、元警察官のデレック・チョーヴィンに有罪をもたらすことができたのは、抗議運動に白人が参加したからだ。
白人の力なしで、この国を変えることはできない。
現在78歳のバイデン大統領が二期8年を務められるかどうかはわからない。ハリス副大統領が、次回の大統領選を考えていないとは言い難い。
差別主義者ではない白人もたくさんいる現代のアメリカで、白人国家のこのアメリカで、黒人の彼女が、“人種差別の国“と表現することは、とても危険な行為なのだ。
カマラ・ハリスの発言は、政治的決断によるものだ。
多くのメディアは、副大統領がティム・スコットに同意したことにフォーカスしているし、これまでこの国に裏切られ続けた彼ら黒人が、彼女の言葉を政治的発言として、冷静に受け止めることは簡単なことではない。
しかしながら、バイデン大統領は「白人至上主義はテロだ」と言った。黒人のハリス副大統領には言えないこと、オバマ大統領にはできなかったことが、白人のバイデン大統領にはできるのではないだろうか?
メディアに惑わされず、これからもバイデン政権の動きに注目していきたい。
バイデン大統領、ハリス副大統領がこの国を正しい方向へ導き、子供たちの貧困をなくし、次世代に優しい環境、そして平和をもたらしてくれますように!
るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。