「よっしゃ!デレック・チョーヴィンが有罪や!」

 2021年4月20日、デレック・チョーヴィン裁判。ミネソタ州ミネアポリス警察の元警察官、デレック・チョーヴィン被告に対し、第2級殺人、第3級殺人、故殺のすべての罪状に対し、有罪判決が言い渡された。  

 2020年5月25日、チョーヴィンジョージ・フロイド逮捕の際に、9分29秒間、頸部を膝で抑えつづけ、フロイド氏を死に至らせた。この行為により、殺人罪に問われていた。

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「見てみろっ!白人も一緒に喜んでるで!」


 裁判が行われたミネソタ州ミネアポリスの地方裁判所の前や、フロイド氏が亡くなった事件現場付近には、数百人もの人々が集まっていた。黒人、白人、アジア人、そこにいるすべての人々が、有罪判決を聞いた瞬間、歓声を上げ、涙を流し、共に喜びあっている。

「黒人を殺した警官が有罪やで。へっへー、チョーヴィンのアホ、牢屋行きや。」

 あいつら警察官、これまで好き放題に俺ら黒人を殺してきたけど、そんなこといつまでも続かんのじゃ!ざまーみろっ!」

 ダンナがニュースを観ながら、その内容をニコニコ笑顔で解説している。

 これまで数えきれないほど多くの黒人が、警察官に殺されてきた。しかし、そこに司法は存在しなかった。彼らを殺した警察官は野放しで、同じことが毎日のように繰り返されてきた。彼ら黒人は、何十年も、何百年も、何世代にも渡って、この瞬間を待ち続けていたのだ。この国は、解決のための最初の一歩を、ようやく踏み出すことに成功した。


 3月8日からはじまった、デレック・チョーヴィン裁判は、州裁判では例のない、テレビ中継が行われた。

 フロイド氏が息を引き取るまでの映像は、ティーンエイジャーの携帯電話によって撮影された。SNSで公開され、世界中の人々に衝撃を与えた。正義のために人々は立ち上がり、この1年間、アメリカの至る場所で抗議運動が行われた。この裁判は、多くの人に注目され、そして見守られた中で行われた。


 スティーヴ・シュライヒャー検察官の最終論告は心に響いた。

「この事件は、あなたがこのビデオを観た瞬間に思ったとおり、感じたとおりのものです。あなた自身の目を信じてください。あなたが信じたこと、あなたの目で見たこと、あなたが知ったこと、あなたの体が、心が感じたこと、それがこの事件です。あなたはもうわかっているでしょう。これは警察官としての行為ではなかった。これは殺人でした」



 ジェリー・ブラックウェル特別検察官の最終論告は、ブラボーのひと言。

「弁護人はフロイド氏の死亡原因は、彼の心臓が大きすぎたからだと言った。しかし、すべての証拠を知った今、真実がわかったはずです。真実は、フロイド氏の死亡原因は、彼の心臓が大きすぎたからではなく、チョーヴィン氏の心臓が小さすぎたからです」

 これは、エリック・ネルソン弁護士の、
フロイド氏の死亡原因は、ドラッグ使用による心臓疾患が影響していた」

 という主張への反論だ。

 黒人検察官が、白人弁護士にスマートに反論し、黒人を殺害した白人警察官に「心臓が小さい」と言ったのだ。

 この検察チームを選んだ人物が、ミネソタ州検事総長のキース・エリソンだ。彼はイスラム教徒としては初の国会議員で、ミネソタ州から選ばれた、最初のアフリカンアメリカン下院議員だ。 

 検事総長は、検察チームを組織し、陪審員の選択を行う。これまで黒人が白人に対して訴訟を起こした場合、その陪審員の多くが白人だった。しかし、今回の陪審員は白人6人、黒人4人、その他ミックスの人種が2人という構成だった。つまり、裁判において、検事総長が誰であるかは、とても重要なことなのだ。

 有罪判決の後の記者会見で、エリソン検事総長は、

「弁護人は死因について、ドラッグ使用、心臓疾患、過度の緊張などを述べ、我々に合理的疑いを超える証拠を要求した。しかし、我々が証明すべきことは、被告人の行為が、実際にフロイド氏死亡の決定的原因であったかどうかである・・・拳銃、崔流ガス、バックアップの警察官たち、警察官のバッチ、すべてを持っていた被告が、あの現場で恐れる要因は何もなかったはずだ」

 と、ネルソン弁護士を非難した。

 そしてもうひとり、忘れてはならない人物が、ミネアポリスの警察長官、メダリア・アラドンドゥだ。アラドンドゥ警察長官は、ミネアポリス署初の黒人警察長官だ。彼は、この事件が起こった直後に4人の警察官を解雇した。これは歴史的な決定だった。そして、

「この事件に関わった4人全員が罪に問われることになります」

 とフロイド氏の家族に伝えた。

 今回の裁判で証人として出廷したアラドンドゥ警察長官は、

チョーヴィンフロイド氏に対する行為は、警察官のガイドラインを逸脱していた」

 と述べた。これも過去には考えられなかったことだ。


 1960年代以降、公民権運動は静かに、ゆっくりと進んでいた。この半世紀で、警察官、弁護士、検察官、議員の職に就いた彼ら黒人は、司法、行政の中でそのポジションを獲得してきた。今回の評決は、そんな彼らの努力の結果でもある。そしてこの日、暗闇の中を進んでいたアメリカの人種差別問題に、可能性という光が射した。

「神様は、我々が耐えてきたことを知っている。これはターニング・ポイントよ」

 と言ったのは、キング牧師の娘、バーニス・キングだ。

 元オハイオ州上院議員のニーナ・ターナー、ジョージア州上院議員のラファエル・ウォーノック、 ジョージ・フロイド家族の弁護士、ベン・クランプも、

「ターニング・ポイント」

 という言葉を使った。

 しかしながら、彼らはこの問題の根が非常に深く、複雑であることも知っている。この国は、長い長い時間をかけて、黒人差別システムを作り上げてきた。そして、このシステムを崩すことを許さない人間が、この国にはまだまだ存在する。1月6日の議事堂襲撃事件を思い出せば、それが事実であることに気付く。




 バイデン大統領は、

「家族はジョージを取り戻すことはできない。しかし、この評決は、アメリカが正義に向かって歩き出す、大きな一歩になり得る。我々は、この国の軌道修正を始める機会を得た。

 しかし、この国には人種平等を手に入れることを阻む連中がいる。我々はジョージの死を無駄にしないために、まだまだ多くのことを乗り越えていかなければならない」

 と述べた。亡くなったフロイド氏と家族を思う、心あるスピーチだった。前大統領から、このような言葉を聞くことはなかっただろう。

 カマラ・ハリス副大統領は、

「私の両親は1960年代に抗議運動に参加しました。昨年の夏、様々な人種を含む、何百万人もの人々が抗議に参加しました。これは、ブラックアメリカだけではなく、すべてのアメリカ人の問題です。そして今回、我々は平等の正義に一歩近づきました。しかし、制度の改革のためにやらなければならないことは、まだまだあります」

 と述べた。副大統領は、この問題を肌で知っている。

 公民権活動家のジェシー・ジャクソン牧師は、

デレック・チョーヴィン裁判は意義深い。けれども、警官による殺人をやめさせるためには、まだまだ努力が必要だ。これはファースト・ダウンであって、タッチダウンではない」

 と、厳しい表情で言った。

 事実、この裁判中も裁判後も、殺される必要のない黒人の若者が、警察官によって射殺されている。

 2021年度、4月21日現在、警察官が市民を殺さなかった日は、3日だけなのだ。


 この日、ジョージ・フロイドの弟、フィロニス・フロイドは、これ以上、ジョージ・フロイドのような犠牲者を出さないために、戦い続けることを宣言した。

「この国の、最初のジョージ・フロイドは、1958年に惨殺されたエメット・ティルでした。

 先日は、ここから10マイルも離れていない場所で、ダンテ・ライトが殺害されました。私は彼のために、彼の家族のために戦います。

 私たちは抗議を続け、マーチを続けなければなりません。このような事件は繰り返され、決して終わらないように感じます。だから私は戦い続けます。私の戦いは、もはやジョージのためだけではありません。私は、世界中のすべての人々のために戦います。

 ジョージに対する正義は、我々すべての自由を意味するのです」

 

 フィロニス・フロイドの、彼ら黒人の努力が報われ、いつかこの国に平等な正義が訪れますように!

 ジョージ・フロイド氏の死が、彼が与えてくれたチャンスが無駄になりませんように! 



https://chicagodefender.com/derek-chauvin-trial-tests-the-scales-of-justice/






るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。

http://blog.livedoor.jp/happysmileyface/