「ジョー・バイデンが勝ったで」
「よっしゃーーーーーっっっ!!!」
ダンナのヴィクトリー・ダンスが始まった。
2020 年11月7日、第46代アメリカ合衆国大統領が決定した。
「バイデンが勝利したら、車がクラクション鳴らして大騒ぎになるから、すぐにわかる」
と言って、3日の投票日からこの日に至るまで、開票速報を見ずに過ごした。
そして、午後になって起床する彼は、目を覚ますとベッドの中で耳を澄まし、
「・・・静かや・・・トランプが勝った???」
と、一抹の不安に毎日襲われていたのだ。
しかし、彼はついにこの不安から解放された!
ダンナの予想と異なり、シアトルの人々は、車のクラクションも鳴らさなければ、大騒ぎもしなかった
けれども、しばらくすると、ジョー・バイデン氏の勝利を祝って、遠くから花火の音が聞こえてきた。
「バイバイ、トランプ!!!」
私たちは、セレブレーション・ディナーの準備にとりかかった。
彼が好きなポテトサラダと具たくさんのスープ。ヴィ―ガンなので、マヨネーズもヴィ―ガン用、ゆで卵もぬき。
チキンバーガーもヴィ―ガン用。
甘党なので、ヴィーガンのブルーベリーパイも。おいしかった。
〇バイデンの勝利宣言
この日の夜、ジョー・バイデンによる勝利宣言が行われた。
このような感謝にあふれたスピーチを聞いたのは久しぶりだなぁ。
バイデン氏は、彼を勝利に導いた国民に対し、投票所でボランティアをしてくれた人々や、彼の選挙活動をサポートした人々に感謝の言葉を述べた。
そして、彼の家族と、カマラ・ハリスとその家族に感謝をした。
トランプが大統領だった過去4年間、我々が耳にしてきた言葉は、他人への侮蔑と悪口、そして嘘がほとんどだ。
さて、バイデン氏はこの勝利宣言で、分断ではなく、結束を目指すと誓った。
民主党、共和党、独立派、急進左派、穏健派、保守派、若者、老人、ゲイ、トランスジェンダー、ラテン系、アジア系、先住民の人々、すべての人の大統領になることを誓った。
共和党、トランプ大統領支持者に対しても、同じ米国人として協力しようと呼びかけた。
バイデン氏は、人種差別主義の根絶を目指し、品位を回復し、民主主義を守るために戦うことを宣言した。
そうなのだ・・・品位なのだ!
この4年間で、アメリカの品位はガタ落ちだった。
バイデン氏の言葉どおり、米国民は次期大統領に、品位と公正をこの国にもたらすことを求めたのだ!
さて、この国の品位を落としたトランプは、この選挙に負けそうになると、
「不正が起こっている!!!」
と言い出した。
もちろん証拠はどこにもない。
しかし、その言葉を真に受けるのが、トランプのサポーターである。
集計所に集まったサポーターたちは、アリゾナ州では、
「集計し続けろー!!!」
と訴え、ミシガン州とペンシルベニア州では、
「集計をやめろー!!!」
と叫んでいた。
選挙結果が出た今も、トランプキャンペーンとトランプはごねまくっている。
「ジョージア州では、兵役に出ている人の投票が間に合わず、数えられていない!」
と文句を言っていたけれど、それは、自分が郵便投票を妨害したからだ。まさに身から出た錆。
「ビッグボーイはパンツをはいて、勝者に祝福の言葉を述べなさい。ジミー・カーターや、ジョージ・W・ブッシュがしたように、潔く負けを認めて、前に進むべきやね」
と皮肉を言っていた。
共産党の味方、FOXニュースですら、敗北を認めるべきだと話している。
それでもトランプキャンペーンは、最後まで戦うつもりらしい。
しかーし!今回の投票率が66%(通常は50%代)を超え、バイデン氏が過去最多の7500万票を獲得できた理由は、国民、特に黒人が、
「トランプをホワイトハウスから追い出して、この国を変えなければならない!」
と、強く思ったからだ。
勝利宣言の際、ジョー・バイデンが、
「アフリカンアメリカンのコミュニティが我々のために、立ち上がってくれた」
と話していたとおり、黒人女性の民主党への投票率は91%、黒人男性は約85%だ。これは、他のどの人種よりも高い数字だった。
これまで選挙妨害のために、投票をあきらめた人もいれば、
「誰が大統領になっても、俺らの生活は変わらん」
と言って、選挙に関心すら持たない黒人もいた。
しかし、今回は違った。彼らは長い長い列に並び、何時間待たされても、投票をした。
彼らは、トランプが政権を握ったこの4年間で、
「パワーを得た人間は、世の中を動かすことができる!!!」
と気付いたのだ。
トランプが大統領に就任して行ったことをいくつか挙げてみる。
カナダから米国に原油を輸送するパイプラインの建設を推進する、大統領令に署名した。
オバマ大統領は、このパイプラインの建設により、雇用は増すけれど、米国民の健康と安全に対するリスクが高まるという理由で、署名をしなかった。
イスラム教徒が多数を占める6か国の市民に対し、90日間の入国禁止を行った。また、すべての難民受け入れを、120日間停止した。
トランスジェンダーの米軍への入隊を禁止した。
地球温暖化対策の、国際的な枠組みである「パリ協定」からの離脱を国連に通告した。
「メキシコシティ政策」を再導入した。
この政策は、米国の資金援助を受ける海外のNGOが、人工妊娠中絶に関連した問題に取り組むこと自体を禁止するものだ。
これは胎児の生きる権利を尊重する共和党と、妊婦の人工中絶を選択する権利を尊重する民主党との戦いだ、政党が変わるたびに復活と廃止が繰り返されている。
NGOは、アメリカ政府のルールに従わなければ、米政府から家族計画に対する資金が受けられなくなる。しかし、発展途上国では、1日に800人以上もの妊産婦が妊娠や出産時の合併症で死亡している。この政策の導入により、女性の健康、命が危険にさらされるのだ。
ハイチ、エルサルバドル、ニカラグア、スーダン出身者に対するTPS(一時保護資格)を打ち切った。TPSは、自然災害や内戦から逃れてきた人々の、滞在と就労の申請を許可する制度だ。これを打ち切ることにより、何十年間も米国で生活をしてきた数十万もの人々が、出国しなければならなくなった。
不法入国者を取り締まる「ゼロ・トレランス」政策を導入し、メキシコ国境で、移民の子供たちを親から引き離して収容した。現在も親と再会できていない子供が545人もいる。
トランプが歴代の大統領と違ったことは、彼は手に入れた「大統領」というパワーをフルに活用して、これらの政策を強引に推し進めたことだ。そして、それを邪魔する人物、意見に逆らう者がいると、迷わず解雇をしてきた。
トランプは、たとえ人の道に外れる政策であっても、大統領パワーで、それを実現できることを証明した。
バイデン氏が、トランプのことを「悪魔」と表したとおり、トランプ政権が継続すると、この国は、暴力と人種差別の国へ向かうことは明らかだった。
しかし、この悪魔のおかげで、アメリカに新しい時代がやってきたことも事実だ。
ニューメキシコ州では、連邦下院の全議席を有色人種の女性が独占した。
デラウェア州ではLGBTQの州上院議員が、テネシー州では州下院議員が誕生した。
南部の人種差別の激しいミズーリ州で、連邦議会議員に黒人女性が当選した。
ジョージア州でも、トランスジェンダーの州上院議員が誕生した。
ニューヨーク州では、連邦議会議員と、上院議員に黒人同性愛者が選ばれた。
ワシントンの連邦下院議員に韓国系アフリカ人が当選した。
サウスキャロライナ州では、女性連邦下院議員が、ワイオミング州では、女性連邦上院議員が誕生した。
これらはすべて米国初の出来事で、トランプの差別主義に対抗するものだ。
そして、なんといってもカマラ・ハリスである。
強く、逞しい、黒人女性副大統領の誕生だ。
トランプから得た教訓で、バイデン大統領とともに、グイグイ、ガンガン、国民のための政策を推し進めて頂きたい。
ジョー・バイデンは白人だけれど、貧しさと、家族を失う悲しみを知っている。
肌の色が違うという理由だけで、貧困を強いられ、警察官によって家族の命を奪われる、黒人のことを理解できる人物だと信じたい。
カマラ・ハリスは、貧困は経験していないけれど、黒人として、人種差別撲滅のために尽力してくれると願っている。
彼女は勝利宣言で、
「私は、アメリカで最初の女性副大統領になるけれど、私が最後ではありません。テレビを観ている女の子たちは、彼女たちにも可能性があること、そして、この国には可能性があることを知るでしょう」
と話した。
彼女の存在は、多くの女性、有色人種、そして子供たちに希望をもたらすに違いない。
この国が、優しさ、希望、感謝で満たされますように!
次の世代の子供たちのために、正義が貫ける世の中になりますように!<了>
るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。