「息子が研修でフロリダに行くらしい」」
「えー、そうなん?大丈夫」
「断れって言うてん」
「ふーん」
「黒人にフロリダ行けっていう会社なんかやめてまえーっ!」
「まぁ、親としてはそう思うよね。気を付けてって言うしかないけど・・・」
「スティーヴィー・ワンダーでも、フロリダではコンサートしないって言うてるねんで!あいつはフロリダのことをわかっていない!」
「シアトルで育った彼には、想像もつかないよね」
「・・・そうやねんなぁ・・・無事に帰ってくることを祈るだけやねんけど・・・」
「黒人はフロリダへの移住はもちろん、旅行にも訪れてはいけない」
NAACP(黒人地位向上委員会)フロリダ支部代表、ジェイムズ・ムワッキル(James Muwakkil)から、黒人へのメッセージだ。
現在、フロリダ州では、ロン・ディサンティス(Ron Desantis)知事により、学校や企業における人種、性差別教育を禁止する「Stop
WOKE Act」をはじめ、妊娠中絶、銃規制などに関する法案が次々と可決されている。
カルチャー・ウォー(文化戦争)だ。
2024年大統領選を意識してのことだろう。
共和党、大統領最有力候補のディサンティスは、トランプ同様に強引で、攻撃的だが、トランプとは違い、頭がいい。
ディサンティスの行政は、ジム・クロウ時代に逆戻りする勢いを感じさせる。
ディサンティスが大統領になることを、黒人は阻止しなければならない。
□ WOKE
WOKEは、現在、社会で起きている問題に対して、認識と理解を持つことだ。
BLM運動が盛んになった2014年以降、SNSで「Stay
WOKE」や「Being WOKE」という言葉が、よく使われるようになった。
「社会問題に目を向け、人種差別を認識して、行動を起こそう!」
この呼びかけに応え、多くの若者がストリートに出て、抗議運動を行った。
けれども、保守派にとって、「WOKE」の盛り上がりは脅威だ。
なぜか?
「WOKE」支持者の多くは、政治に興味を持つ、リベラルな若者だ。
「WOKE」は、若者を投票へ向かわせる。
□ キャンセルカルチャー
「WOKE」を理解しているグループは、保守派37%、リベラル派78%で、若い世代ほど、理解が深かった。
中でも、最も興味を持っている世代が、10代後半から20代前半のZ世代と呼ばれるグループだ。
ピュアな白人種が減少し、混血が増加したZ世代にとって、人種の平等は、社会の基本的問題だ。
生まれた時には、インターネットが存在した、デジタル世代の彼らは、インスタグラムやTikTokを利用し、SNS上で社会問題を訴える。
例えば、ある人や物を指摘し、拡散、炎上させて、社会から追放(キャンセル)する。
BLMが盛んになってからは、人種差別的な発言をした人、企業のトップ、製品がキャンセルされている。
これは、キャンセルカルチャーと呼ばれ、現代社会に大きな影響を与えている。
□ Stop WOKE
Act
2022年4月、ディサンティス知事は、「Stop WOKE Act」法案に署名した。
”個人の特権的、抑圧的な立場は、人種、肌の色、性別、出身国により決まる”という概念を広めることを禁止し、学校や企業において、偏見を認識させる教育やトレーニングを制限する、という法案だ。
これは、WOKEの教化と、CRT(批判的人種理論)に対抗する。
CRT(批判的人種理論)とは、白人至上主義の遺産が、今でも法律や制度に、組み込まれていることを主張する理論で、アメリカの経済格差の原因は人種差別であることを指摘する。
事実だ。
事実であるにも関わらず、「Stop WOKE Act」は、教育機関で、CRTを教えることを禁止する。
奴隷制、ジム・クロウ、リンチ、学校の分離、大量投獄、警察の残虐行為、住宅差別、医療格差、賃金格差、これら歴史上の事実を、子供たちに教えない?
理由は次のとおりだ。
「過去の出来事によって、子供(白人)たちに、罪悪感を持たせるべきではない」
「子供たちが、母国に失望し、互いに憎み合うことになる」
「これらの教育は、逆差別を生む」
まさに、羊の皮を着た狼だ。
うわべは平等を訴えているけれど、この法案の目的は、人々が「WOKE」に対して鈍感になり、「WOKE」を衰退させることだ。
地方裁判所(2022年8月)に続き、連邦控訴裁判所(2023年3月)も、この法案の一部を違憲とし、アカデミック(大学)レベルでは適用されていない。
□ CRT(批判的人種理論)
CRTは1970年代はじめ、法学者が考案した、学問的概念だ。
アメリカの社会形成の根幹には、白人至上の人種差別がある。
しかしながら、「白人は抑圧者」「アメリカは差別大国」という事実を、保守派の白人は受け入れられない。
それは、自分たちの存在を否定し、尊厳を冒すものだ。
これまで、黒人の尊厳を踏みにじってきたにも関わらず、である。
フロリダ州では、ソーシャルスタディ(社会学)の教材から、CRT(批判的人種理論)と、LGBTQに関する内容を削除した。
この動きは全米に広がりつつあり、アメリカ図書館協会は、全米の教育機関、図書館からCRT、LGBTQに関する本を排除した。
2021年は729冊、2022年は1269冊だ。
その中には、公民権運動の母、ローザ・パークスや、キング牧師のストーリーも含まれる。
今年、フロリダ州の、ある出版社は、売上げを維持するために、ストーリーそのものを変更した。
オリジナルは、「黒人のローザ・パークスは、白人のために席を譲ることを拒否した。法律は、白人が席に座りたいと言えば、黒人は席を譲らなければならなかった」だ。
次に、「ローザ・パークスは彼女の肌の色のために、席を譲るように言われた」に変更された。
さらに、「ローザ・パークスは、違う席に移動しろと言われた」に改訂された。
人種のことにはまったく触れていない。
また、フロリダ州ピネラス郡セントピーターズバーグ小学校では、ブラックヒストリーマンツ(2月)に行っていた、映画「ルビー・ブリッジズ(Ruby Bridges)」の上映を禁止した。
ブラックヒストリーマンツは、アフリカ系アメリカ人の偉人や、その歴史を回想する行事だ。
「ルビー・ブリッジズ」は、1960年、教育機関の人種統合を目指し、ニューオーリンズの白人学校に、たったひとりで通った少女(ルビー)の話だ。
公民権運動を語るにおいて、絶対に外せないストーリーだ。
ここ数年、ピネラス郡では、この映画の上映が恒例になっていた。
ところが今回、2人の母親が、自分の子供に視聴させない選択をした。
ひとりの母親は、3月6日に正式な苦情を申し立てた。
ルビー・ブリッジズが小学校に入る際、白人がルビーに対して行った嫌がらせの画像は、子供たちに人種差別の歴史を見せることになる。
ピネラス郡の学校関係者は、委員会の調査結果が出るまで、セントピーターバーグ小学校での上映を禁止することを決定した。
今回、学校側は、ひとりの母親の苦情を受け入れた。
ディサンティスは、親が授業のカリキュラムに介入することを勧めている。
今後、親の介入はさらに増えるに違いない。
□ その他の法案、そして黒人がするべきこと
2023年、フロリダ州の妊娠中絶は、15週間から6週間に短縮される予定だ。
2023年3月31日、フロリダ州議会は、官許なしで、隠して銃を持ち運ぶことを認可した。
テネシー州ナッシュヴィルの小学校で、シューティングにより、6人が亡くなった事件から4日しか経っていなかった。
4月1日、「Don't Say Gay」法案の対象年齢が、3年生から8年生まで上がった。
この法案は、教育機関で、性的指向、性認識に関する議論を禁止する。
今後、すべての公立学校で適用される予定だ。
「Stop
WOKE Act」の施行を一部阻止した、連邦控訴裁判所の決定に対し、ディサンティスは、
「フロリダ州からWOKEはなくなる!」
と言った。
時代と逆行する、反黒人の時代へと向かう、ロン・ディサンティスの勢いは止まらない。
「黒人は旅行に来てはならない」
「黒人はフロリダ州に移住するべきではない」
NAACPのジェイムズ・ムワッキルは勧告する。
その目的は、フロリダ州の人種差別、ディサンティスの政策を全国の黒人に知ってもらい、2024年の選挙で、ディサンティスの大統領就任を阻止することだ。
ローザ・パークスのバスボイコット事件を思い出す。
今こそ、黒人の結束力を見せる時だ!
ジェイムズの勧告が全米の黒人に届き、黒人はもちろん、BLMをサポートする白人もフロリダ行きをボイコットして、正義のパワーを見せて欲しい。
平等と正義を信じる人々の気持ちがひとつになり、アメリカが差別のない、平和な国に向かいますように!!!
るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。