「なんでカイリーが謝らなあかんねん!」
「映画の紹介しただけやん!」
「カイリーは自分自身のヒストリーを学ぼうとしただけやで。俺もこの映画を観たいわ」
「黒人なら誰もが観たいんじゃないの?私も観たいけど」
「俺らは映画紹介しただけで謝罪させられるけど、あいつらは、黒人をリンチにかけたことを謝罪したことないで」
「謝るまで、カイリーのこと許さないよねー」
「黒人は、言うことを聞いてる限り給料もらえるけど、主張したら、つぶされるねん」
「でもさー、カイリーをサポートするブラザーはおらんのかっ!」
「今の生活を維持したければ、白人社会に寄り添わなあかんねん」
「う~・・・黒人のソウルを売るな~っ!」
「その通り!でも、真実を知り始めた俺ら黒人を、今までみたいに騙し続けることはできへんで!」
10月28日、NBAニューヨーク・ネッツのカイリー・アーヴィングが、ドキュメンタリー映画「ヘブライからニグロへ:ブラックアメリカよ目を覚ませ(Hebrews to Negros: Wake Up Black America)」という映画のリンク(アマゾン)をSNSに投稿した。(日本ではまだ未公開)
この映画のオリジナルは、2015年に出版された同タイトルの本だ。
2018年、筆者のロナルド・ダルトン・ジュニア(Ronald Dalton Jr.)は、これを自費で映画化した。
聖書に登場するイスラエルの子孫は、現在のユダヤ人(白人)ではなく、アフリカンアメリカンを含む有色人種である可能性を明らかにした内容だ。
これに対し、カイリーを攻撃した。
もともと反ユダヤ主義とは、ユダヤ人、ユダヤ教に対する敵意、憎悪、迫害、偏見により、ユダヤ人を差別、排斥しようとする思想だ。
「俺は他人の人生も受け入れる。俺が信じることも受け入れて欲しい」
と話すカイリーに対し、メディアは彼が反ユダヤ主義の思想を持っているか否かを追求した。
「俺は自分が何者かを理解している。理解していれば、反ユダヤ主義にはなれない」
けれども、世間が求めた答えは「No」という明確な言葉だった。
「反ユダヤ主義の、偽情報にあふれた映画を支持したカイリーに失望する。
私たち全員を傷つけ、人種、民族、宗教に基づく憎悪を促すことは間違っている」
とTwitterに投稿した。
そして、「No」と答えず、謝罪に応じなかったカイリーに出場停止処分を科した。
カイリーとパートナーシップを結んでいたナイキの創始者、フィル・ナイトは、
「カイリーは一線を超えた」
と言い、契約を解消した。
LAレイカーズのレブロン・ジェイムスはこう言った。
「人々を傷つける内容を発言、宣伝することを尊重しない。私は容認しません」
NBAコメンテイターとして活躍する、チャールス・バークリー、シャキール・オニール、ケニー・スミスは、
「カイリーの出場停止処分は然るべき対応だ」
という意見で一致した。
さらに全米ユダヤ人委員会、北米ユダヤ人連盟などのユダヤ人組織は、この映画と、オリジナルとなった本の販売ネットワークの停止を依頼し、それに応じなかったアマゾンを、
「故意に反ユダヤ主義を広めている」
と批判した。
ふむ・・・
カイリーは、
「こんな映画があるよ」
と、紹介しただけだ。
そこまで敏感に反応する必要があるのだろうか?
そもそも、ジョー・ツァイが偽情報と断言する根拠はなんだろう?
偽情報ならば、カイリーは騙されていると、一笑に付せばいいのではないか?
なぜユダヤ人組織は、表現の自由を奪取してまで、この本と映画を抹殺しようとするのか?
□この映画が意味すること
先にも述べたように、この作品は、数々の研究と調査を重ねた。
その結果、古代ヘブライ、イスラエルの子孫は、現代のユダヤ人(白人)ではなく、アフリカンアメリカンを含む、有色人種だったことを解明した。
*ヘブライ人、イスラエル人、ユダヤ人は、時代や立場により使い方は異なる。が、基本的には同じ民族を指す。
奴隷船でアメリカに連れてこられた黒人が、神の子だった?
白人系ユダヤ人のルーツに関する研究は、これまでにも多く発表されている。
そのたびに、ユダヤ人団体は敏感に反応した。
白人系ユダヤ人が、歴史上に突如として現れたのは8世紀以降だ。
彼らのルーツは7世紀頃に存在したハザール王国だと言われている。
ハザール王国(無宗教)は、東ローマ帝国(キリスト教徒)と、イスラム帝国(イスラム教徒)に挟まれていた。
宗教対立に巻き込まれそうになったハザール王国は、いずれの宗教も選ばず、キリスト教とイスラム教の母体であるユダヤ教を選んだ。
さらにユダヤ教を国教とした際に、自分たちはイスラエルの子孫だということにした。
白人系ユダヤ人、白い肌を持つイエス・キリストの誕生だ。
歴史を塗り替え、真のユダヤ人になりすました彼らは、その真実を何世紀にも渡って、隠蔽し続けた。
現在では、白人系ユダヤ人の90%は、ヘブライ人と血縁関係のない、異民族であることがわかっている。
実際、壁画などが残っているヨーロッパでは、カトリック司祭、教皇でさえ、黒い肌の聖母マリアとイエスキリスト像に祈りを捧げている。
一方、奴隷としてアメリカへ連れてこられた黒人は、真実を知る術がない。
白人系ユダヤ人は、真の神の子(黒人)を最低の人種に位置付け、社会を支配し続けることに成功した。
ところが、今回は、アフリカンアメリカンがヘブライ人だと解明された!
この事実が黒人に与える意味は計り知れない。
彼ら黒人の歴史は奴隷からはじまっている。
生まれた瞬間からこの国の底辺だった。
なぜ奴隷なのか?
なぜ奴隷でなければならないのか?
なぜ黒い肌がいけないのか?
なぜ殺されても構わない存在なのか?
長い間、彼らにはその理由がわからなかった。
しかし今回、何千年にも渡るこの謎が、ロナルドによって解明された!
彼らは奴隷ではなかった。
彼らは神に一番近い存在だった!
大切にされるべき存在だったのだ!!!
ふーん・・・という感じかもしれない。
同じアメリカで暮らす黒人でも、人種差別の少ないエリアで、両親や兄弟、社会から大切にされた経験を持ち、大学に進学、仕事を得られる環境で育った場合、その真実の重さ、喜びを理解することはできない。
なぜなら、彼らは自分が大切にされるべき存在であることを知っているからだ。
けれども、このアメリカには、そのことを知らない黒人もたくさんいる。
カイリーが、この映画をブラザーやシスターたちとシェアしたいと思うのは、当然のことだった。
□この映画は反ユダヤ主義的なのか?
果たしてこの映画は、ジョー・ツァイが言うように、反ユダヤ主義の、偽情報にあふれた作品なのか?
私はこの映画は観ていない。けれども、本はざっと読んでみた。
天と地がひっくり返るような内容だ。とはいえ、これが真実であれば、なぜ黒人が神の子から奴隷に転落したかの理由が腑に落ちる。
念のために、Wiki(インターネット上フリー百科事典)も調べてみた。
“この映画は、イスラエル人の子孫は黒人ヘブライ人だという、誤った信念を促進する。
今日のユダヤ人は、黒人抑圧のために宗教的遺産を隠蔽し、メディアを支配したという偽りの情報と、ユダヤ人の国際的陰謀、貪欲な権力主義を主張する、反ユダヤ主義に満ちた内容だ。
掲載された研究は、捏造された内容もあり、信用できるものではない“
全否定だ。
ローリングストーン誌はどうだろう?
“多くの高位のユダヤ人が悪魔を崇拝していると述べた、毒々しい反ユダヤ主義の映画(本)だ!”
ニューヨークタイムス、ワシントンポスト、ニューヨークポスト、TMZなど、カイリーの事件を掲載した、これらすべてのメディアは、反ユダヤ主義的映画と定義している。
やっぱり偽情報なのか?
しかし、よーく考えてもらいたい。
Wikiの創始者、ジミー・ウェイルズはユダヤ人。
その他のメディアもユダヤ系、ヨーロッパ系の白人だ。
マルコムXの映画を観た人は、マルコムXが「神様は黒人だ」と教えられるシーンを覚えているかもしれない。
「誰もが、神様は白人だと知っている」
というマルコムXに対し、囚人仲間のベールが、
「お前は白人に教えられたすべてのことを受け入れて、信じてるだけや」
と言った。
そして、辞書で“黒”と“白”の意味を調べさせる。
“黒”は、陰気、好ましくない、禁じる、邪悪、不名誉、恥、というネガティヴな意味、イメージだ。
これに対し“白”は、潔白、純粋、無害、正直など、“黒”と正反対、ポジティヴな内容が記載されている。
さて、辞書を作ったのは誰だろう?
白人だ。
お葬式は黒、ウェディングは白。
悪魔は黒、エンジェルは白。
黒い色は“悪”、白い色は“善”、これらはイメージであって、事実ではない。
しかし、これらイメージは、辞書、教科書、映画やドラマなどのメディアを介し、我々にすり込まれ、次第に事実へと変わっていく。
そんなことが可能なのか?
出版業界、教育団体、新聞、雑誌、テレビを含むすべてのメディア、ハリウッドなどのエンターテイメントの世界、IT業界、これらを支配している人々は、白人であり、黒人ではない。
彼らには、世界に発信する情報をコントロールする力があることだけは間違いない。
黒い肌は邪悪だというイメージは、事実となり、人々から蔑まれる存在になった。
一方、潔癖で、純粋な白い肌は、神に最も近い、崇拝されるべき存在となり、社会を支配する権力を獲得した。
これが事実であれば、その行為そのものが悪魔的で毒々しい。
映画が偽物だと主張する彼らの根拠は、自分たちでつくりあげた歴史、そして彼らが支配するWikiなどの情報源であり、ロナルドの研究を覆すだけの調査と研究は行われていない。
□白人社会は、本当に情報をコントロールしたのか?
1921年5月31日、オクラホマ州タルサ市の、グリーンウッド地区で、300人の黒人が、武装した白人暴徒によって虐殺される事件があった。
銀行、教育施設、ホテル、グロッスリーストアなど、すべてのビジネスを黒人が所有し、ブラックウォールストリートと呼ばれたこの場所は、24時間で焼き尽くされた。
2021年6月1日、バイデン大統領は、この“タルサ人種虐殺”事件100周年を機に、現職大統領として初めてタルサを訪れ、
「この事件は暴動ではなく虐殺だった」
と演説し、犠牲者の黒人を追悼した。
この日まで、歴史から葬られたこの事件を知るアメリカ人は、ほとんどいなかった。
バイデンが大統領になっていなければ、今でも封印されたままだったかもしれない。
大統領の訪問に合わせ、ニューヨークタイムスは、俳優のトム・ハンクスのエッセイを掲載した。
「私は、学校で南北戦争や奴隷解放宣言、KKK(クー・クラックス・クラン)について学んだ。
公民権運動のために戦った、歴史的黒人についても学んだ。
ハリエット・タブマン(黒人奴隷解放指導者)、キング牧師、ローザ・パークスなどだ。
けれども、1921年のタルサ大虐殺については、昨年まで知らなかった。
私が得た知識、学んだ歴史の教科書は、私と同じ白人によって書かれた。
学校で何を教えるか、教科書に何を掲載するかは、すべて白人の手にある。
そして、黒人の歴史は白人によって葬られた。
黒人生徒もいる、統合された学校に通っていた私は、アフリカンアメリカンに対するリンチは悲劇だと教えられた。
けれども、これらの公開殺人が当たり前で、地元の新聞や法執行機関により、賞賛されたことは教えられていない。
私が選んだ業界が、これらの歴史的事実を、フィルムとして公開し始めたのは、つい最近のことだ。
1921年の大虐殺を、小学5年生で学べば、我々白人の、人種に対する考えは変わるのではないだろうか?」
という内容だ。
経験に基づく彼のエッセイは、多くのことを語っている。
□目覚めよ!立ち上がれ!ブラックピープル!
カイリーが復帰する条件は6つあった。
“公の場での謝罪”、“映画に対する非難“、”反ヘイト運動団体に50万ドルの寄付“、”ユダヤ人指導者との面会“、”反ユダヤ主義への理解を高めるトレーニング“、”ジョー・ツァイとの対談“だ。
何度も言うけれど、彼は映画のリンクを投稿しただけだ。
謝罪もどうかと思うけれど、立派な考えを持った大人に対して、“映画に対する非難”、“反ユダヤ主義への理解を高めるトレーニング”を強要することは、尋常ではない。
当初はカイリーの行動を非難していたレブロン・ジェイムスも、メディアに立ち向かった。
「あなたたちメディアは、ジェリー・ジョーンズが人種差別をしたことに関しては、俺に一度も質問していないのに、カイリーのことは質問し続ける。
遠い昔のことだし、誰もがミステイクをする。
けれども、白人が過ちを犯したときは、“まぁええか”となるのに、黒人が社会の気に入らないことをすれば、すべてのタブロイド紙、新聞、雑誌に攻撃される。
とても残念だ」
レブロンが話しているのは、NFLダラス・カーボーイのオーナー、ジェリー・ジョーンズのことだ。
1957年、アーカンソー州のリトルロックハイスクールで人種統合が行われ、はじめて黒人生徒が入学することになった。
この時、黒人生徒の建物への侵入を阻止した白人暴徒の写真に、当時14歳だったジェリー・ジョーンズが写っていたことが、つい最近発覚したのだ。
レブロンは白人と黒人に対する処罰の違いに憤りを示し、レポーターに一言も発言させなかった。
「よっしゃー!!!それでこそ、レブロン・ジェイムスだ!!!」
ボストン・セルティックスのジェイレン・ブラウンは、この処罰について、すべての選手が不快感を持っていると言い、カイリーをサポートすることを宣言した。
「ブラザーはこうじゃなきゃいかん!」
今回のように、白人社会のセンシティヴな部分に触れると、彼ら黒人は攻撃され、すべてを奪われる。
NFLのコーリン・キャパニックは、警察官の黒人に対する抗議運動をしたことで、選手生命を絶たれた。
2014年、コメディアンのビル・コスビーは、NBCを買収しようとした途端に、レイプをされたという女性が次々と現れ、今では犯罪者だ。
俳優、コメディアンとしてハリウッドで活躍するニック・キャノンは、2020年に反ユダヤ主義的発言をした途端に、すべての仕事を奪われた。
白人の巨大組織と戦うためには、黒人が一丸となり、立ち向かわなければならない。
個人的には、選手全員がNBAを辞めて、アイス・キューブが運営するBIG3へ行くか、黒人が運営するバスケットリーグを作って欲しい。
NBA、MLB、NFL、すべてのスポーツリーグから黒人がいなくなったら、トップは困るぞ~。
もちろん、そんなことは起こらなかった。
11月20日、反ユダヤ主義的な内容を含む、映画のリンクをSNSに投稿した行為を謝罪したカイリーが、ゲームに復帰した。
ナイキシューズのロゴをはがした彼の靴には、“私は自由だ!”というメッセージが書かれていた。
翌日、彼はSNSでファンに呼びかけた。
「自由であること以上に、価値のあるものはない」
「我々は、コミュニティとして、いかにパワフルであるかを示す時がきた!」
この日、会場のバークレイズセンターには、カイリーをサポートする、黒人ユダヤ人グループが集まった。
「俺たちは真のユダヤ人だ!」
「立ち上がる時がきた!」
彼ら黒人が真のユダヤ人かどうか、映画や本の内容が真実かどうか、それを信じるか否かは、あくまでも個人の選択だ。
それでも今回の騒ぎの結果、多くの黒人が、この映画に興味を持った。
自分たちは神の子だった、神の子かもしれない。
この事実は、彼らに歓喜、希望、そしてパワーを与えた。
白人の中には、怒っている人もいるけれど、黒人の戦いに手を差し伸べようとしている人もいる。
チャールス・バークリーたちのように、豊かな生活ができるようになった黒人が、現在の収入を投げ捨てて、白人社会と戦うことは簡単なことではない。
けれども、誇り高く、自分の信念を貫き、社会と戦うブラザーを批判する、白人の望む黒人になって欲しくはない。
なぜなら、この国には、家もなく、仕事もなく、学歴もなく、食べるものもなく、ただただ生きているだけの黒人が、まだまだたくさんいるからだ。
警官の黒人に対する暴力、射殺事件は今でも毎日のように起きている。
黒人は一丸となり、彼らを応援してくれる白人と共に、子供たちの未来のために、立ち上がらなければならない。
「エメット・ティルのママは、正義を見ずに亡くなった。
ものすごい数の黒人が殺されてきたけど、俺らは一度も正義を見てない。
俺は、これ以上待ちたくない!
俺ら黒人に正義を示す時が来たんやっ!」
ダンナの叫び、黒人の叫びが届き、アメリカに平等が訪れることを心から願っている。
人々が互いに信じ合い、助け合い、喜び合える世の中になりますように!
るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。