
「男がナンシー・ペロシの家に侵入したらしいよ」
「なんで議員個人の家を襲うねん!あいつら、頭おかしい!」
「中間選挙が近付いてるしなぁ。おかしいのが出てくるよね」
「次の大統領選で共和党が政権を握ったら、俺ら、こんな国におられへんで」
「確かに・・・これまでと同じじゃないよね~・・・」
10月28日、民主党のナンシー・ペロシ下院議長の自宅に男が侵入した。
ペロシ議長はワシントンにいて無事だった。けれども、在宅していた彼女の夫がハンマーで頭を殴られた。
家に侵入した男は、 次のように供述している。
「彼女を人質に取り、俺の質問に対して嘘を述べたら、ハンマーで膝の骨を折るつもりだった。車椅子で議会に出席すれば、他の政治家への見せしめになるからね」
短絡的なこの男は、トランプを救世主とあがめるQアノン信者だ。 呆れるほど浅はかではないか。
この国には、トランプ精神(Trump spirit) を持ち続けている人々、白人至上主義者がいる。
2016年の大統領選でトランプが掲げたキャンペーンスローガンは、
「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国にしよう)」。
これは黒人奴隷法、ジム・クロウ法が存在した、古き良き時代を、彼らに彷彿させる内容ものだった。
「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国にしよう)」。
これは黒人奴隷法、ジム・クロウ法が存在した、古き良き時代を、彼らに彷彿させる内容ものだった。
初の黒人大統領の誕生(2009年)。白人の人口は減りつつある今、黒人がこの国を支配し、パワーが逆転することを恐れていた人たちは、このスローガンに希望を持った。
彼らは正義や信実ではなく、この国における白人のパワーを重視した。
パワー維持のためなら、法を破ることも、暴力を振るうことも許されると勘違いしている集団だ。
パワー維持のためなら、法を破ることも、暴力を振るうことも許されると勘違いしている集団だ。
2021年1月6日に起きた議事堂襲撃事件は、そのことを明確に示した。
国民の選挙によって敗北したにも関わらず、その事実に納得できず、暴力で奪回しようとした。
そして、そんな彼ら暴徒を、トランプは「愛国者」と呼んだ。
彼ら「愛国者」にとって、黒人大統領の誕生はもちろん、バイデン大統領と黒人のカマラ・ハリス副大統領の政権は脅威でしかない。
11月8日に実施される中間選挙では、上院・下院議員にできるだけ多くの共和党員を送り込み、次回の大統領選で、バイデン大統領を脱却させる必要がある。
アメリカの政権は民主党と共和党が交互になる場合が多いとはいえ、トランプ政権以降、MAGA(Make America Great Again)共和党員、共和党支持者の行動は常軌を逸している。
ウィスコンシン州知事選の候補者で、トランプ支持者のティム・マイケル(Tim Michael)は、
「今回、私が勝利したら、今後、ウィスコンシン州で共和党が敗北するようなことは、二度と起こらない!私はそのことを確実にする!」
と公の場でスピーチした。
確かに、彼が知事になれば、今後の州選挙では、ゲリマンダー(政党が候補者に有利なように選挙区を区割りする)、投票場の移動や閉鎖、投票ID制定を当たり前のように行うだろう。
ウィスコンシン州議会を共和党が掌握すれば、州と郡レベルにおける、白人以外の人種に対する抑圧と支配が始まる。
それを可能にするのが、MAGA共和党議員である。
選挙妨害も、いくつかの州で確認されている。
中でもアリゾナ州では、武装した白人が24時間の投票箱を監視し、投票者を撮影、追跡、脅迫している状況だ。
州の選挙ディレクターには、脅迫メールが送られた。
しかし、これらの行為に対して、州は警察を巡回させ、投票箱の周囲にフェンスを張っただけで、男たちに対するアクションは起こしていない。
連邦裁判所が、投票箱周辺の監視を禁止させることに対し、「広範な抑制命令は違憲」という理由で、拒否したからだ。
なぜか???
トランプが就任時に送り込んだ、3人の検事の存在だ。
この3人の入所により、連邦裁判所の9人の判事のうち、共和党所属の検事が6人になった。
この影響は、実に大きい。
今年6月24日、連邦裁判所は、「中絶は憲法で認められた女性の権利」という1973年の判断を覆し、人工妊娠中絶を禁止する州法を合憲とした。
このことにより、米国の約半数の州が、中絶を禁止すると予想される。
これは中絶の是非ではなく、女性の権利獲得の問題だ。共和党所属検事が、連邦裁判所検事の多数を占めた結果、アメリカは49年前に逆戻りした。
残念ながら、連邦裁判所判事に任期はない。今後も、トランプスピリットを持つ検事によって、様々な権利が奪われる可能性が考えられる。
連邦裁判所に続き、今回の中間選挙で 共和党が議会で多数を占めることになれば、黒人や有色人種、LGBTの権利獲得が、より困難になることだけは間違いない。
さらに、中間選挙で過半数を奪回した場合、共和党下院はバイデン大統領弾劾に踏み切る可能性を示唆した。
とはいえ、アメリカ史上、弾劾裁判に至ったのは、アンドリュー・ジョンソン(1968年)、リチャード・ニクソン(1974年)、ビル・クリントン(1998年)の3人だけだ。
ウォーターゲート事件で有罪確実だったニクソンは、訴追直前に辞任したので、実際に弾劾された大統領は、歴史上ひとりもいない。
政敵を罰する弾劾は、余程の不始末がない限り、実行されないことが常だ。
クリーンなバイデン大統領が、有罪になることはまずないだろう。
けれども、インフレ、犯罪率、失業率などの取り組みに対する国民の不満や、大統領不支持率、もしかしたら、大統領の老齢、物忘れの事実を持ち出し、弾劾を実行することもないとは言えない。
けれども、インフレ、犯罪率、失業率などの取り組みに対する国民の不満や、大統領不支持率、もしかしたら、大統領の老齢、物忘れの事実を持ち出し、弾劾を実行することもないとは言えない。
それほど、この国の白人至上主義者は危機を感じている。
ところで、バイデン大統領は本当に何もしなかったのか?

インフレ、犯罪、移民、山積みの問題を、たった2年間で解決することは不可能だ。
けれどもバイデン政権は、警察官の首絞め行為、無断家宅捜索令状、ブリオナ・テイラー(Breonna Taylor)やジョージ・フロイド(Gorge Floyd)の訴追、警察官の違法行為など、社会的平等、人種差別問題、司法警察改革など、公約の約80%を達成、もしくは着手している。
問題は、ホワイトハウスがこれらの情報を公開しておらず、国民の72%がその事実を知らなかったことだ。
黒人に選挙を促すグループは、これらの事実を広める努力をしているけれど、中間選挙に間に合うかどうかがポイントだ。
選挙妨害を予想して、多くの黒人が期日前選挙に訪れたけれど、若者の選挙に対するモチベーションと投票率が落ちている。
彼らの一票が、この国の政治に大きく影響することを理解し、選挙に参加してくれることを願うばかりだ。
MAGA共和党員は、個人の自由、正義、法の支配を脅かす、強権的な独裁者を支持する。
共和党員すべてが白人至上主義者、MAGA共和党員ではない。しかし、MAGA共和党員に、他の共和党員が圧倒された場合、この国は必ず後退する。

共和党と民主党のバトルが激しいアリゾナ、ジョージア、ネヴァダ、ミシガン、ウィスコンシン州のキャンペーン会場へ応援に駆けつけた、オバマ元大統領が言っていた。
「中間選挙はジョークじゃないよ」
中間選挙まであと数日。
アメリカの民主主義が維持されることを祈らずにはいられない。
暴力と支配のない世界で、人々が優しい気持ちで暮らせる日が訪れますように!
るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。