↑ 前編です。

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 2016年のシーズン終了後、コーリン・キャパニックは49ersとの契約を終了した。
 フリーエージェントになったものの、声がかからない。
 候補にあがったシーホークスとの面接では、「抗議運動を継続する」と答えるや否や、終了した。  

 コミッショナーのロジャー・グッデル(Roger Goodell)は、
「選手はサイドラインに起立する。できない場合は、ロッカールームに残れ!」
 というルールを設けた

 もちろんトランプは、満足しない。TwitterでキャパニックやNFLを批判するだけではなく、

「膝つきをやめさせなければ、リーグは大変なことになるぞ!!!」

 と、オーナーたちを電話で脅した。

 さらに2017年9月22日、アラバマ州での演説だ。

「国旗に敬意を払えない選手に対して、“奴(Son of a bitch)を捕まえて、追い出せ!!あんな奴はクビだ~!!!!!”と、NFLのオーナーが言うところを見たいもんだね」

 “Son of a bitch”は男性に対する侮蔑の言葉だ。
 この汚い言葉に、会場から拍手と歓声が沸き起こった。

 このスピーチの後、200人の選手が膝をついた。
 そして10月、ヒューストン・テキサンズのオーナー、ボブ・マックネアの発言だ。

「囚人は看守によって管理される。選手も同様だ。囚人が刑務所を管理することはできない」

 “Son of a bitch”の次は“囚人”ときた。テキサンズの選手たちは、このときはじめて膝をついた。

 ゴールデンカップ・ステイツで優勝したステファン・カリー選手は、ホワイトハウスで行われる、優勝セレブレーションへの出席を辞退した。

darikon




「ええぞっ、カリー!俺らのブラザーに対して、“Son of a bitch”って言う大統領に誰が会いたいねん!みんな辞退しろ~!!」

RURUaikon



「NBAの選手は、NFLより主張するよね」

darikon









「NBAのファンは若いし、スティーヴ・カーみたいに、選手を支持するコーチもおるやん。NFLのオーナーは選手側じゃないもん。俺のことを囚人と呼ぶような奴のために、俺は絶対に働かへん!」

 選手たちはトランプに、マックネルに憤慨した。キャパニックのキャリアや抗議の自由を奪うリーグに憤った。そして、多くの選手が抗議に参加した。 
 しかし、抗議のターゲットは、「警察組織と法組織」から、「大統領とNFL」に変わっていた。 

  2018年5月、激しくなる抗議運動に対し、NFLは、“社会問題、不平等改善のため”と称して、$90ミリオンを投資した。実際には、選手を買収して、抗議をやめさせるためだった。 

 2カ月後、“抗議を継続する選手には、罰金を課す!”というルールが出された。 

 2019年、膝をつく選手は、エリック・リー、ケニー・スティルズ、そしてドルフィンズのアルバート・ウィルソン(Albert Wilson)の3人だけになった。 

 さらに、NFLはラッパーのJAY-Zをリクルートした。 

 JAY-Zは、黒人に関する社会的平等をその音楽に捧げていた。キャパニックを支持し、彼の名前の入ったユニフォームを着ていた。 

 それにも関わらず、彼のエンターテイメントビジネス、JAY-Z ROCNATIONSは、NFLとパートナーシップを結んだ。 

 彼らが行う「Inspire Change Program(変化をもたらすプログラム)」における、JAY-Zの役割は、スーパーボールのハーフタイムショウに出演するパフォーマーの選択だ。選手とリーグ、オーナーが共同して、全国のコミュニティに、より良い変化をもたらすことが目的らしい。 

「膝つきも3カ月なら理解できる。でも、もう3年や。キャパニックは仕事を失くし、黒人はいまだに殺されている。このプログラムによって、全国の人々とつながることができる。俺たちは過去の膝つきから前進する」 

 このパートナーシップに対する意見は賛否両論だ。しかし、このプログラムの問題は、「リーグと選手との対話、協力」をアピールしているだけで、「警察官による虐待と立法組織の不正」にはふれていない点だ。 

 スポーツジャーナリストの、ジェミール・ヒルいわく、 

JAY-Zは、黒人の信用を得るという、これまでNFLが必要としなかったことを与えた。そして黒人カルチャーの重要な部分(音楽)、白人が得られない部分を与えすぎた」 

 NFLはこのパートナーシップにより、人種的な溝を埋めるチケットを手に入れた。そして彼らはプレスを利用し、互いによく見せることに成功した。 

 この結果、キャパニックの存在はほとんど消えてしまった。 

darikon










「フットボール選手のキャパニックが、プレイすることを手放すって大変なことやで。ミュージシャンがステージに立たれへんのと同じやん。俺にはキャパニックの気持ちがわかるなぁ」

RURUaikon



「JAY-Zはミュージシャンとして、その気持ちがわからんのかなぁ」


darikon

「JAY-Zはビジネスマンやん。大きい金が動いたんちゃう?

 
 2019年11月、キャパニックはアトランタでワークアウトのスケジュールが決まっていた。彼は、あえてスカウトに声をかけなかった。時間の無駄になることは目に見えていた。 彼の予想は当たった。アトランタ・ファルコンのホームフィールドで行われる予定だったワークアウトは、予定時間の1時間前になって、地域の高校の運動場に変更された。それでも、7チームのスカウトが彼を見るためにやってきた。 
 キャパニックの能力はなにひとつ変わっていなかった。しかし、彼とサインを交わすチームはない。 

「彼とサインをするときは、すべてのクウォーターバックが怪我をしたときだ」 

 と、ひとりのオーナーが言った。 

 キャパニックは記者会見を行った。 

「今日は、すべてをクリアにしておく、それを証明する日でした。 

 私たちはどこへ向かうこともなく、今日を迎えた。その真実を伝えるためには、3年間攻撃し続けた人、攻撃され続けた人、すべての人がここにいることが重要です。来てくださったことに感謝します。 

 私は3年間ずっと復帰する準備ができていた。32人のオーナーからの連絡を期待していた。皆が真実と向かい合う日を待っていた。 

 今後も32チームからの連絡を待ち続けます。そして彼らから、なんらかの言葉が届いたときには、皆さんに包み隠さずお伝えしましょう」 

 キャパニックキャパニックのままだった。彼は、誰のことも非難しなかった。 

 状況が大きく変わったのは、2020年5月25日、ジョージ・フロイド氏殺害事件の後だ。 

 この時、人々はキャパニックのメッセージを思い出した。NFLの選手、アスリート、俳優、そして多くの国民が膝をついた。 

 膝つきのポーズが、BLM(Black Lives Matter)の象徴となった。 

 そして、NFLコミッショナーが、ビデオを介して、選手に謝罪した。 


「我々の国では、特に黒人にとっては、困難な時が続いている。ジョージ・フロイド氏をはじめ、警察官の暴力により、亡くなられたご家族にお悔やみを申し上げます。 

 NFLはこの国の黒人に対する組織的抑圧を非難します。これまで私たちは、声をあげ、平和的に抗議する選手に耳を傾けず、応援しなかった。NFLは間違っていました。 

 NFLは、そして私個人もBLMをサポートします。 

 黒人の方々なしで、NFLは成立しません。私たちは耳を傾けます。そして声をあげていた選手と連絡をとり、どのように私たちが改善し、前進できるか、NFLファミリーの団結を図ります」 

 NFLが黒人選手に謝罪する?選手と団結する?過去には考えられなかったことだ。これは、アメリカの、スポーツ界における歴史的変化だ!!!!! 

 しかしグッディルキャパニックの名前に触れることは、この時も、この後も、一度もなかった。 

 キャパニックはNFLから事実上追放された。 

 1966年、ボクシング世界チャンピオンの モハメド・アリは、ベトナム戦争へ行くことを拒否し、牢屋へ入れられた。タイトルとライセンスも奪われた。 

 1968年、メキシコオリンピックでは、200メートルメダリストのトミースミスと、ジョン・カルロスがフィストを掲げたために、オリンピック協会から追放され、選手生命を絶たれた。 

 50年経った今でも、この国で声をあげた黒人アスリートは、つぶされる。  

 しかし!!この抗議運動は過去のそれらとは異なる。 

 キャパニックの勇気ある抗議により、NFLの選手は目覚め、自分たちのパワーに気付いた。 

 NFLはこれまでのように、力と金だけで選手をコントロールすることはできない。 

 そして、警察官の黒人虐待、法システムにおける黒人差別に人々が気付いた。膝つきは、国への冒とくではなく、BLMのシンボルとなった。 

 キャパニックは、歴史上はじめて大統領と戦ったアスリートだった。そして、NFLにおけるパワーバランスに、歴史的変化をもたらした。 

 NFLの抗議運動はキャパニック、彼とともに戦い続けたリースティルズの勇気、犠牲、そして名誉のレガシーなのだ。 

  キャパニックは現在、講演、メディア、出版の3本柱で人権活動を行っている。 

 4月には、“他人と違うことは素敵なことなんだよ”というメッセージが込められた、彼の絵本、「I Color Myself Different」が発売された。 

 キャパニックの活躍を今後も応援したい。 



るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。
                                                          https://happysmileyface2.blog.jp/