「今度は何やねんっ!!」
「リビングは明るいし、うるさいから、ベッドルームで寝たいなーと思って」
コロナのことや、ダンナのアレルギー症状など、ちょっとした事情があり、かれこれ半年近く、私はリビングの椅子に、足置きをつなげて眠っている。
もちろん寝心地は良くない。
しかも夜行性のダンナの活動時間は、私の就寝時間だ。
さらに先日、ダンナがコンピューターのモニターを、大きな画面のテレビにつなぎ変え、そのテレビを、私の寝床の真横にあるテーブルの上に設置した。
つまり彼は、私が眠っている真横の巨大モニターをみながら、曲を作り、映画を観る。
これは、かなり鬱陶しい。そこで、
「椅子をベッドルームに移してもいいですか?」
ということになったのだ。
「電気消したらええやないかっ!!!お前は、白人が議会議事堂に乱入してることを知ってるんか?もし、おまえがリビングで寝ることに腹を立ててるとしたら、それは間違いやっ!」
「えーっ?間違いなん???」
「間違ってる!そんなくだらん文句なんか、聞きたくないんじゃっ!!!」
・・・・・・くっそ~!!!と思うけれど、ここで反撃してもロクなことはない。
「・・・・・・誰も文句なんか言うてないわ・・・自分はベッドで寝てるくせに・・・ぼけっ・・・だぼっ・・・どあほっ・・・どっか行けっ・・・ブツブツブツブツ・・・・・・・・」
聞こえないように言う。これは文句だ。
2021年1月6日、トランプサポーターたちは、ワシントンDCの議会議事堂に乱入した。
このニュースは、ダンナはもちろん、多くの黒人に怒り、やり切れなさ、そして 悲しみを与えた。
これは、選挙に不正があったと信じ、トランプの敗北を受け入れられないトランプサポーターが抗議をし、暴れているという、単純な事件ではない。
多くの黒人が政治に参加すること、そのような国家になることを許せない、白人至上主義団体による、国内テロリズムだ。そして、このテロにより、ナショナルセキュリティ、国家安全の崩壊が表面化した。
1月3日、テキサス州出身の上院議員、テッド・クラズは、
「1月6日、我々が、静かにこの日の夜を迎えることはない」
と演説した。
1月6日といえば、ワシントンDCの議会議事堂において、選挙人獲得数の最後の集計が上下両院によって行われる予定だった。次期大統領が正式に決定する。
当日、乱入の4時間前に、大統領選の不正に対する訴訟を担当したジュリアーニ弁護士と、トランプの長男が、
「我々はキャピトル(議事堂)まで行進しなければならない!」
「我々はこの国を自分たちの手で取り戻すぞ!」
とスピーチをした。
さらにトランプ本人が登場し、
「我々の力を見せつけよう!」
「キャピトルに向かって行進しよう!私も君たちと共にそこに向かうぞ!」
と、集まった人々を鼓舞した。
午後1時、トランプサポーターは、バリケートを破り、議事堂へと進んだ。
躊躇なく前進してくる暴徒に対し、警察官は催涙スプレーをまき、体でブロックをした。
暴徒の中には、警察官に殴りかかる者もいた。
銃を携帯している者もいた。
しかし、銃に手を触れた警察官はひとりもいなかった。
驚いたことに、警察官の中には、バリケードを開けて、彼らを敷地内へ促す者もいた。
暴徒のために議事堂の中へ入る扉を開け放ち、通路の脇に立って、彼らが中へ進む様子を黙ってみている警察官もいた。
もちろん、任務を遂行した警察官もいる。
今回、ひとりの女性が、警察官に首を撃たれて亡くなった。
彼女は、議員たちが集まっている議会場へと続くドアを打ち破るために、先頭に立ってバリケートをよじ登った。
扉の向こうでは、警察官が銃を構えていた。
彼女がその扉を突破すれば、その後ろから何百人もの人々がなだれ込む。彼女が後退しない限り、その警察官には発砲以外の選択はなかった。
しかし、彼女たち白人は、警察官が自分たちに銃を向けるとは思っていない。
中には、手にしていた旗で警察官を殴る者もいた。
彼らは報道番組のカメラを奪い、警察官の目の前で燃やした。
これが黒人による暴動であれば、この時点で数百人の人々が殺されていたことだけは間違いない。
この事件の4日前、キャピトル(議会)警察は、
「我々は、群衆が押し寄せてきたことを想定している。彼らが中に入りこむことはできない」
と発表した。
事実、議事堂敷地内へ入る道は限られている。また、建物に到達するまでの距離もかなりある。セキュリティを突破して、議事堂の中へ侵入することは、簡単なことではない。
黒人共産党議員のマキシン・ウォーターは、トランプサポーター、KKK、プラウドボーイズのメンバーがワシントンDCに入ってきたとき、警備の再確認をした。
警察主任は、
「誰ひとり、敷地内に侵入させません」
「銃を携帯している者は逮捕します」
と力強く答え、マキシンに安全を約束した。
ところが、その言葉とは裏腹に、暴徒たちは楽々と内部へ侵入した。
銃を携帯している人々が逮捕されることもなかった。
彼らの目的は、今回の大統領選挙の不正を認めさせ、ジョー・バイデンが大統領に就任することを阻止することだ。
彼らはその目的達成のために、議会議事堂へ乱入し、ターゲットのマイク・ペンス副大統領、ジム・クライバーン、ナンシー・ペロースィなど、バイデン派議員たちのオフィスを襲った。
マキシン・ウォーターは、椅子でバリケートを作り、オフィスに籠城した。キャピタル警察から連絡があり、避難を促されたけれど、今や警察官も信用できない。
「ケネディ大統領、キング牧師が暗殺されたように、我々も殺される可能性がある」
と、死を覚悟したそうだ。
黒人民主党議員のジム・クライバーンは、
「彼ら暴徒たちは、私の名前が書かれたオフィスを素通りし、私がいつも仕事をしている部屋にやってきたぞ。この部屋で仕事をしていることは、内部の人間しか知らないことだよ」
というメールをジョー・バイデン宛に送っている。
暴徒たちは、ジム・クライバーンのオフィスを襲い、そして、アメリカ合衆国下院議長のナンシー・ペロースィのオフィスも攻撃した。
オフィスの扉は二枚あり、二枚目の扉の向こう側では、ナンシーのスタッフが、バリケードを作り、机の下に潜り込んで、息をひそめた。
1時間半後、ついに暴徒たちは二枚目の扉も破壊して、中へ入ってきた。
ナンシーは警察官の指示で、避難していて無事だったけれど、ラップトップ以外のすべての物が破壊された。オフィスにあった鏡は割られ、ガラスの破片が部屋中に飛び散った。
ナンシー・ペロースィのオフィスを乗っ取った男は逮捕された。FBIは、このテロリズムをリードしていた男たちに、議員を誘拐し、殺害する意思があったかどうかを調査中だ。今回のテロには政府内部の人間が関わっていたことは明らかだ。
そもそも、キャピタルに集まった8千人のトランプサポーターに対し、警備に配置された警察官はたった500人だった。
侵入してきた2千人の暴徒に対し、議員たちを守るために、建物の中にいた警察官は150人だ。
たとえ、このテロが計画されたものではなかったとしても、FBIは、5分以内にキャピトルに駆けつけることができた。
ワシントンDCの各警察署から、警察官を緊急出動させることも可能だった。
しかし、キャピトル警察への応援はなかった。
マイク・ペンス副大統領のセキュリティ、ボディガードは、銃を構え、360度警戒し続けた。大統領のボディガードでさえ、過去にこれほどの警戒態勢をとったことはない。
この事件は統率力、指導力のある、組織化されたグループによって、綿密に計画されて行われた国内テロリズムである。
共和党と民主党の各ヘッドクウォーターに近い場所では、爆破物も確認された。
この事件の発端は、今回の大統領選挙で、多くの黒人が投票へ向かったことだ。
その結果、主に白人で構成されたトランプ政権から、様々な人種、国籍、性別で組織されるバイデン政権へ移行することになった。
黒人の不平等をなくすためのプランを提示する、バイデンの政治は、アメリカ合衆国における第三期リコンストラクション(黒人の法的、社会的、政治的、経済的な平等を構造的に再建させる取り組み)をサポートするものだ。
第一期は1865年から1877年、南北戦争後、奴隷制が崩壊したときだ。リコンストラクションを進めたリンカーン大統領は暗殺された。政策を引き継いだアンドリュー・ジョンソン大統領は、弾劾は逃れたものの、再建をする力は残っていなかった。
第二期は1955年から1968年、キング牧師のリーダーシップにより、アメリカの公民権運動はピークを迎えた。しかし、キング牧師の暗殺により、この再建も終結した。
第三期リコンストラクションは、2020年5月に起こったジョージ・フロイド氏殺害事件から始まった。今回は、キング牧師のようなリーダー的存在はいない。しかしBLM運動には、白人を含む様々な人種が参加した。これまで投票に行かなかった黒人が選挙へ行った。
しかし、トランプサポーター、白人至上主義団体は、これをアメリカ合衆国の崩壊だと考える。そして、自国の政府に対してテロを企てた。
政府内部のテロリストの存在により、合衆国政府は危険にさらされ、ナショナルセキュリティは崩壊した。
この国の警察組織が、白人テロリストたちに銃を向けない限り、この国のリコンストラクションの成功は難しい。
このテロ事件は、終わりではなく、始まりなのだ。
現在、議員たちはトランプ大統領の弾劾を進めている。
このテロは、この男によって扇動された。
たとえ任期が残り1日であっても、これを実現しなければならない。弾劾された場合、彼は二度と大統領のポジションに就くことができないからだ。
トランプ弾劾が実行され、内部テロリストが逮捕されることを心から願っている。
他者を蔑み、傷つける、醜い心が人々の中からなくなりますように。そして、このアメリカに平等、安全、平和がいちにちも早く訪れますように。 <了>
るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。