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「ピラミッドをつくったのは黒人や!」

「宇宙飛行を成功に導いたのは黒人女性数学者なんじゃ!」

「NBAの選手を見てみろ!オリンピックのバスケットボール選手は全員黒人や!おれらはまともにご飯を食べてなくても、これだけのことができるねんぞっ!おれらがご飯を食べられるようになったら、えらいことになるんじゃ~~~!!!」

 こんなふうにダンナがプリーチング(preaching)を始めると、嫁の私は、
「そうだっ!そうだっ!」
 と、合いの手を入れる。
 
 私は日本で「食事はご飯を主食に一汁三菜、1日36品目を摂りましょう」と教えられて、育った。
 学校でも家庭でも、贅沢とは言わないまでも、バラエティに富んだ食事を頂き、成長した。

 ダンナは13歳で家出をするまでは、大好きなおばあちゃんの手料理を毎日食べていた。
 その後、お隣に住む11人の子供に混じってご飯を食べたり、孤児院や少年院の食事を頂いたり、仲良しのショーンと、工場からこっそり頂戴したマスターケースのポテトチップスを一週間食べ続けたり、夜中に忍び込んだブドウ園のブドウを食べたりしながら、大きくなった。

 栄養不足のまま成長したはずのダンナの身体機能、知的機能、頑丈ぶりは、そこそこ栄養が足りて大きくなった私のそれより、はるかに優れている。
 たしかに、彼らの栄養状態が良くなり、夢を持って勉強やスポーツに打ち込める環境になれば、様々な分野で、彼らの能力が発揮されはじめるだろう。そうなったら、白人が作り上げたこの国のシステムは維持できなくなるかもしれない。

 そこで、それを阻止するために、黒人に対する選挙妨害を行う。
 
 南北戦争で連合国が敗北した1865年、憲法13条によって奴隷制が廃止された。
 1867年、憲法14条で、アフリカンアメリカンの市民権が認められた。
 1870年の憲法15条では、人種差別を理由とした投票権拒否が禁止された。
 彼ら黒人は選挙権を得たことで、ついに自由の保障と民族自決を手に入れることに成功しつつあった。
 1867年以降は、彼らの多くが選挙に参加し。議席も獲得し始めていた。
 
 ところが、である。
 1877年、南北戦争の後、南部を占領しつづけた合衆国軍が撤退する。南部各州はただちに悪名高い「ジム・クロウ法」を制定。白人が議会を支配した。
 ジム・クロウ法は州によって異なるけれど、多くの場合、黒人が選挙登録をする際に白人の保証人や、不動産の所有が求めた。
 そして不動産を持っていない場合は、読み書きテストに合格することが要求した。
 さらに、これらの条件をクリアしても、選挙登録証を手に入れるためには、人頭税を支払わなければならない。
 その金額は年間1ドル50セントで、黒人の場合のみだけ。選挙権が得られる21歳から、登録完了した年までの総額を支払うことが求められた。
 
 投票するのに有料?白人の保証人?不動産の所有?教育を受けるチャンスに恵まれない彼らの中には、読み書きができない人も少なくなかった。

  いずれの条件も、黒人にとっては簡単なことではなかった。簡単であってはならなかったのだ。

 アラバマ州セルマでは、過半数の黒人が、脅迫によって有権者登録を妨害された。
 これに対して、キング牧師はセルマから首都のモンゴメリーまで、デモ行進を行う。
 しかし、州兵や警察官たちは、暴力で抗議運動を抑圧しようとした。これが1965年3月に起きた「血の日曜日」である。
 
 
 
 この抗議運動の結果、人種差別による投票妨害を禁止する投票権法がやっと制定された。
 さらに1966年、最高裁判所が人頭税を禁止。
 これで1969年までに、黒人投票者の数はほぼ40%も増加したと言われている・・・
 が、共和党による選挙妨害はまだまだつづく。
 相変わらずつづく。
 2020年になった今でもつづいている。

 例えば、現在もアメリカの18州が、投票時に写真付き身分証明書の提出を義務付けている。
 インナーシティへ行けば、定職もなければ、住まいすらない黒人がたくさんいる。そんな彼らがパスポートはもちろん、運転免許証を持っているとは思えない。

 21州は投票日当日まで選挙登録を受け付けているけれど、黒人が多く暮らす場所では、期限を設けている州もある。登録に間に合わなかった場合、投票資格は得られない。

 さらに、ここ数年で、アメリカ南部にある約1200カ所の投票所がクローズされた。投票所へのアクセスが悪くなれば、投票率が低下することは目に見えている。
 
 また、アメリカの選挙は平日に行われるにも関わらず、多くの州が期日前投票を認めていない。時給制やシフト制で働いている低所得者層、マイノリティにとって、投票日に休暇を取ることも、休暇を取ることで1日の収入を失うことも、容易なことではない。

 ほんの先日、2020年6月9日、アトランタでの地方選挙では、黒人が多く暮らす地区の投票用機械だけが故障した。
 不在投票を申し込んだにも関わらず、投票用紙が届かない事態も多く発生している。この他、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ワシントンDCでも、同様の妨害が起こっているらしい。

 2020年はコロナウィルス感染の心配もあるため、郵便投票が望ましいとされている。
 郵便投票なら、機械の故障もないし、アクセスを心配する必要もない。投票率の上昇が期待されているにもかかわらず、これに突如として反対しはじめた人物がいる。

 トランプ大統領と、ウィリアム・バー司法長官だ。

「郵便投票の場合は詐欺行為が起こる!」

 
 とバーは言ったけれど、その証拠がないことも認めている。ちなみに、この男は白人国家主義で、警官の黒人殺害を免除、警察組織をサポートしている役人のひとりだ。

 これらの選挙妨害や、オバマ政権の間に生活が大きく変わらなかったこともあり、実は、黒人の中には投票へ行く意欲をなくしている人もいる。
  しかし逆に考えると、投票によって世の中が変わる可能性があるから、共和党は妨害するのである。
 つまり、黒人がこの国における市民権を得るためには、投票に行けばよいということになる。

 先日、ルイジアナ州バトンルージュの黒人活動家が、その必要性をとてもわかりやすく説明していた。
 黒人人口が全体の86%を占めるバトンルージュでは、今回、2人目の黒人市長が誕生した。しかし、黒人家庭の経済状況は、白人家庭のそれに比べて、いまだに低い状態が続いている。
 
 その原因は議席にある。国からルイジアナ州への配当金は270憶円、そのうちの9憶円がイーストバトンルージュ群の予算となり、その中から4憶2千5百万円がバトンルージュ市へ分配される。ところが、議席の半数以上が白人によって占められているため、その予算の95%が白人の暮らす町、ビジネス、学校に充てられてしまう。

 バトンルージュのほかにも、シカゴ、アトランタ、ファーガソンなどにも黒人市長がいるけれど、市長が黒人になったところで、その町の黒人の生活環境が変わるわけではない。白人が議席を確保している限り、彼らはその金の使途を支配できるからだ。
 黒人居住地では、清掃車が来る回数が少なく、バスなどの公共交通機関の路線も限られている。
 小学校や公共施設の設備や備品も、白人居住地のそれよりも粗末だ。
 そして、彼らは守ってもらえるはずの警察から暴力をふるわれる。
 黒人も他の人種同様、税金を納めているにも関わらず、白人が予算をコントロールしている限り、黒人コミュニティに、納めた税金が還元されることはないのだ。
 これら状況を打ち破るためには、大統領選はもちろん、ローカルレベルの選挙から参加し、黒人、もしくは差別主義者ではない白人が議席を獲得していかなければならない。

 そして、投票へ行くことを呼び掛けるために、NBAのレブロン・ジェームズが立ち上がった!
 
 彼は、アトランタ・ホークスのトレイ・ヤング、ゴールデンステイツ・ウォリアーズのドレイモンド・グリーン、元NBAのジェイレン・ローズ、WNBAのスカイラー・ディギンズ・スミスといったアスリートたちに協力を求め、「More Than Vote」という非営利団体を設立した。

 この団体では、選挙妨害から黒人有権者を守り、投票に必要な情報を与え、教育を行う。
 それによって、地方選挙を含め、多くの黒人有権者が、11月3日に行われる大統領選挙に参加することを目標としている。

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 モハメド・アリや、ビル・ラッセルに感銘を受けたというレブロン・ジェームズは、彼のトップアスリートという自分の影響力を利用して、黒人の公民権獲得、第三期リコンストラクションの成功に向けて、戦うことを決意した!
 素晴らしいなぁ。
 現在、俳優のケヴィン・ハートが協力し、ミュージシャンたちにも声をかけているそうだ。これがどんどん広がって、NBA、NFL、MLB、ハリウッド、皆が憧れる人たちがタグを組んだ
ら、この国は大きく変われるかもしれない。そして黒人の子供たちが、夢と希望を持って生きられる世の中になることを願っている。
 がんばれっ、レブロン・ジェームズ!がんばれっ、ブラックピープル!



るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。

http://blog.livedoor.jp/happysmileyface/