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「日本人はバッファローのシューティングのこと知ってるの?」



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「ニュースに出てるから、知ってると思うよ」

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「どんな風に思ってるの?」


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「みんな黒人に思いを寄せてると思うよ。でも、人種差別や事件の深いところまでは理解できないかも・・・」



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「そりゃそうやな。俺らに憎しみの感情を持ってるのは、アメリカの白人(至上主義)だけやもん。俺、ツアーでヨーロッパに何度か行ったけど、ヨーロッパの白人から差別を感じたことないよ。白人のいない日本で、俺らのことを理解するのは難しいやろな・・・」



 2022年5月14日、ひとりの白人の男が車から降り立った。
 迷彩服、防弾チョッキ、ビデオカメラをつけたヘルメット・・・・。男の手には、ライフルが握られていた。
 男はライフルを構えると、躊躇することなく人々を撃ち始めた。
 ニューヨーク州バッファロー、黒人居住地にあるスーパーマーケット「Tops Friendly Market」の駐車場での事件である。


 駐車場で4人を撃った後、その男は警備員を追いかけ、店内へ移動した。
 6分が過ぎた頃、店の正面入り口に現れた男は、サングラス、ヘルメットを外し、銃口を自分の首にあてた。
 パトロールの警察官はすでに到着していた。
 男は警察の呼びかけに静かに応じ、ライフルを下ろした。そして手袋、ベストを脱ぎ、膝をついて地面に伏せた。まるでなにかの儀式を終えたかのようだった。 

 このシューティングで10人の方が亡くなり、3人が負傷した。犠牲者の11人が黒人だった。 

 犯人はペイトン・ジェンドロン(Payton Gendron)。まだなんと18歳だ。
 白人至上主義を自称するこの男は、この日このとき、黒人を殺すためだけの目的で、3時間半かけて、この町へやってきた。 

 ジェンドロンが選んだこの町は、バッファロー市のイーストサイドに位置する。住民の85%が黒人だ。
 1967年の暴動の後、この町にあった理髪店、家具店、すべてのビジネスがウェストサイドへ移り、黒人コミュニティだけが残った。
 2003年、この町にTopsができた。ようやく新鮮な野菜や果物が身近で手に入る。Topsはイーストサイドで暮らす、すべての人が訪れる、コミュニティの中心地だった。 

 犯人の目的は、できるだけ多くの黒人を殺すことだった。
 教会、小学校、モール、黒人が集まるいくつかの場所を候補にあげ、最終的に自宅から一番近い、黒人居住地にあるこの店を選んだ。時間は土曜日の午後、最も店が混む時間だ。 

 犯人は3カ月前に下見に訪れ、警備員と言葉を交わしている。
 犯行前日も店を訪れ、常連客のルイスと、外のベンチで会話をした。
 Topsに来る客は地元の人ばかりだ。
 常連客と会話をすることが日課のルイスは、「Genious(天才)」と書かれたTシャツを着た、若い白人客に興味を持った。ルイスは犯罪理論、政治や文明開化について、ジェンドロンと語り合った。キャンプをしながら、地方都市を見てまわる予定だと言う。
 約2時間後、ルイスは、彼の車を見送った。 

 事件当日の午後、ルイスはいつものようにTopsへ行った。
 けれども、その日の警備員がエレン・ソルターだったため、すぐに店を後にした。元警察官のソルターは、客がダラダラと店内に残ることを嫌うから、やりにくい。

 ルイスが銃声を聞いたのは、道路の反対側へ移動し、ジュースを飲もうとしたときだ。そこには、ライフルで人々を射撃しているジェンドロンの姿があった。 

 ジェンドロンの犯行は計画的だった。彼は昨年の11月からオンラインで日記を公開していた。そこには、今回の攻撃に必要な項目が記されて、犯行時の動きが記載され、店内の地図も投稿されている。
 さらに犯行前日、彼は180ページにも及ぶ声明文を投稿した。 

 「グレイト・リプレイス理論」を支持するジェンドロンは、今回の攻撃は、“すべての非白人、非キリスト教徒を恐怖に陥れ、彼らを米国から追い出すことを意図する”と述べている。

 「グレイト・リプレイス理論」は、移民政策、白人の少子化により、米国社会で人種の置き換えが進む、というものだ。米国をこれまで支えてきた白人社会が危機に追い込まれると考えるこの理論は、現在、多くの白人至上主義者を脅威に陥れている。 

 攻撃映像は、ライブストリーミング配信プラットフォームのTwitchで、事前登録した15人の視聴者に向けて配信された。 

「目的を成し遂げるためにやらなければならない」 

 と言うと、ジェイドロンは攻撃を開始した。カメラに映ったライフルには「ニガー」、「賠償だ」と書かれていた。攻撃の途中、銃を向けた相手が白人だとわかると、 

「Oh…Sorry」 

 と、謝罪し、移動した。彼のターゲットはあくまで黒人だった。 

 事件後、エリー郡保安官のジョン・ガルシアは、「人種的動機による憎悪犯罪(ヘイトクライム)だ」と言った。
 FBIのステフィン・ビロンギアは、「憎悪犯罪、人種的動機による過激派の攻撃、この双方で捜査を進める」と述べた。
 ニューヨーク知事のキャシー・ホーコウは、「白人至上主義者によるテロ行為だ」と明確に表現した。 

 そして、バイデン大統領は「白人至上主義は毒だ!」と言った。 

 白人による黒人殺害を、憎悪犯罪だと明確に表現し、白人至上主義を力強く非難する。この国が正しい方向へ進んでいることだけは間違いない。 

 しかし、その一方で、エリー郡地方検事のジョン・フリンは、 

「公共のオピニオンは理解できるが、私は法の下で働いている。犯人は有罪判決が出るまで無罪であり、私は彼を潔白として扱う。同情と哀れみを持って銃撃犯をサポートする」 

 と述べた。 

 ジョージ・フロイドやエリック・ガーナーは、その場で警察官に殺された。しかも微罪だ。それなのに、殺人現場を実況中継している犯人が潔白???10人を殺したジェイドロンを無罪として扱う???犯人に同情???意味がわからない。 

 ジョン・フリンは黒人が犯人であれば、同じような発言、対応はしていなかっただろう。それ以前に、犯人は現場で射殺されていたと思うけれど。 

 信じがたいことは他にもある。 

 事件が起きたとき、Topsのアシスタントマネージャーのラティーシャは、息を潜めて911(警察の電話番号)をした。 

「銃撃犯がいます」 

「なぜ、ひそひそ声で話すのよっ!?」 

「今、ここに銃撃犯がいて、命の危険を感じているんです!」 

 犯人の銃声は近付いてくる。このオペレーターは、恐怖の真っただ中にいるラティーシャを、汚い言葉で怒鳴った挙句、電話を切った。彼女はボーイフレンドに電話をし、911をしてもらった。 

 電話をかけてきた相手が白人であれば、オペレーターの対応は違ったはずだ。 

 明らかに白人至上主義とわかる人もいる。ニューヨークで看守として25年間勤務する、グレッグ・フォスターは、 

「通路3番のクリーンナップをお願いします。あ、4番も。7、9、12、13も頼むよ。え、早すぎる?でも有害物は除去するべきだよね、FBフレンド」 

 と、Topsの写真を添えてFBに投稿した。有害物とは黒人のことだ。恐ろしいことに、彼のFBフレンドは、この内容をおもしろいと感じている。これが黒人ではなく、10匹の犬だったら、投稿内容はもっと思いやりのあるものだったに違いない。 

 テレビのコマーシャルを二人で見ながら。画面には悲しそうな顔をした犬がいる。 

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「犬を救うために1か月にたった80ドル、1日に60セントやって・・・」

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「助けたくないわけちゃうけど、たったは全員に当てはまらんな。腹ペコの黒人はいっぱいおるで」



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「でも、ユニセフの募金は1日50セントやって・・・犬より安いよね」



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「おれら黒人は動物以下やからな」

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「は~・・・」

 これらSNSが与える影響は大きい。インターネット上には、「グレイト・リプレイス理論」を提唱する人が集まる場所がある。そして、その理論をサポートする様々な情報が氾濫している。18年間の人生で、ペイトン・ジェンドロンが、黒人やアジア人と関わり、憎しみを持つほどの経験をしたとは考えられない。彼の思考は、これらインターネットの情報から構築された。 

 犯行を事前に防ぐことはできなかったのだろうか? 

 ジェンドロンは、2020年5月から、白人至上主義者と自称して、いくつかのウェブサイトに投稿している。
 今回の犯行計画は、6か月間にもわたって、インターネット上の日記で公開されていた。
 SNSの管理者が投稿を厳しくチェックしていたら、事件は防げたかもしれない。とはいっても、多くの投稿からヘイトスピーチを見つけることは困難かもしれない。 

 ただ、ジェイドロンの場合は、以前から異常な言動が確認されていた。昨年6月、他の学生を脅迫したことで、ジェンドロンは警察に尋問されている。 

 また、教師に今後の計画を尋ねられ、「殺人をして自殺をしたい」と答えている。教師は彼が危険な人間であることを把握していた。
    学校から連絡を受けた警察は、彼を病院に拘束したけれど、1日半で釈放している。このとき州警察は、ジェンドロンが所有する銃の回収命令すら出していない。 

 FBIは、ジェンドロンを危険人物として監視できたはずだ。この時点で、彼が利用するSNSをチェックしていれば、事件は起きていなかったかもしれない。 

 影響を与えたのはSNSだけではない。 

 この「グレイト・リプレイスメント理論」をテレビで唱え続けている人物が、FOXニュースのキャスター、タッカー・カールソン(Tucker Carlson)だ。 

「政府の移民政策によって、俺たちは他の国から来た人間に入れ替えられるぞ!・・・政府は部外者をより大切にしている!・・・黒人は白人に脅威を与え、攻撃する!」 

 と、その発言はかなり過激だ。彼は番組の中で、400回以上もこのテーマを取り上げている。 

 もちろん、この理論に賛同する人間は、タッカー・カールソンだけではない。 

 ウィスコンシン州のリズ・チェイニー(Liz Chainey)、ペンシルベニア州のスコット・ペリー(Scott Perry)、そして元KKK最高幹部、ルイジアナ州のデイヴィッド・ルーク(David Duke)をはじめ、この国の約15%の共産党員は、「グレイト・リプレイス理論」支持者だ。 

「この国で多数派だったヨーロピアン・アメリカン人口が急速に減少している。もし、ただちに対応しなければ、黒人やアジア人がこの国を支配し、我々は少数派になるぞ!投票数が減少し、我々のパワーは奪われるんだ!」 

 と、キャンペーンで訴えるデイヴィッド・ルークの支持率は、なんと45%だ。選挙の重要性をひしひしと感じると同時に、第二、第三のペイトン・ジェンドロンの存在を疑わずにはいられない。 

 事件翌日。 

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「買物行ってくる。なんかいる?」

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「ふらふらスーパーなんか行くな!」



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「・・・あ、そうよね・・・」

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「こんな事件は続くんや。家にじっとしとけ!」



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「・・・は~い・・・(・・・晩御飯がないぞ・・・)」




*バッファロー・シューティング後1週間で、憎悪犯罪1件を含む14件のシューティングがあった。 

 白人至上主義者は、オバマが大統領になったときから、パワーの逆転に怯えている。
 パワーを維持するために、黒人を虐殺してきた歴史を持つ彼らは、黒人も彼らに対して同じことをすると考える。
 しかし、彼らの根本的な間違いは、他の人と彼らの思考は異なるということだ。黒人は、彼らのように、暴力でこの国を支配することなど考えていない。彼ら黒人が求めていることは、正義と平等、そして彼らの子供たちが安心して暮らせる社会なのだ。 

 黒人は、彼らを差別する白人至上主義、白人至上主義者は憎んでも、白い肌を持つという理由だけで、白人を憎んではいない。ルイスは、黒人コミュニティに現れた白人の珍客を不思議に思っても、そこから追い出すことなど考えなかった。 

 今回、亡くなられた10人は、ペイトン・ジェンドロンに対して何もしていない。 

 ナーシングホームで暮らす、ルース・ウィットフィールド(Ruth Whitfield:86歳)は、この週末、夫を訪ねる前に夕食の買物をしていて事件に巻き込まれた。 

 チャーチに通うパール・ヤング(Pearl Young:77歳)は、料理上手で有名だった。 

 ショートケーキで使うイチゴを買いに来ていたのは、6人の孫を持つ、セレスティーン・チェイニー(Celestine Chaney:65歳)だ。 

 キャサリン・メイシー(Katherine Massey:72歳)は、バッファローの公民権運動家として有名だった。彼女は昨年、新聞に銃撃を非難する記事を書いたばかりだ。 

 今回の事件で一番若い被害者だった、ロバータ・ドゥルーリー(Roberta Durury:32歳)は、弟を看病するために、この町へ戻ってきたばかりだ。 

 チャーチへ行くと、必ず会える人物がヘイワード・パターソン(Heyward Patterson:67歳)だ。彼はTopsの常連だった。 

 マーガスD.モリソン(Margus D.Morrison:52歳)の死によって、3人の子供たちが父親を失った。 

 アンドレ・マックニール(Andre Mackneil:53歳)は、孫のサプライズ・バースデイ・ケーキを買うためにTopsへ立ち寄り、事件に巻き込まれた。 

 料理、お菓子作りを得意とするジェラルディン・タリー(Geraldine Talley:62歳)は、頼まれれば、誰にでも美味しい料理を準備してくれた。 

 そして、警備員のエレン・ソルター(Aaron Salter Jr.:55歳)だ。彼は犯人に撃たれながらも、コミュニティの人々を守るために、勇敢に戦った。しかし彼の銃弾は、防弾チョッキを着用したジェンドロンの攻撃を止めることはできなかった。 

 彼らには家族があり、ささやかながらも生活があった。 

 彼ら全員のご冥福を心から祈りたい。 

 ペイトン・ジェンドロンのような人間が二度と育たない、思いやりのある、心優しい社会になりますように。 

 亡くなったご家族、コミュニティの人々に、あたたかい手が差し伸べられ、彼らの心の傷が少しでも癒されますように。 


 

るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚へ。
http://blog.livedoor.jp/happysmileyface/